古澤 満コラム私は子供のころからラマルクの“獲得形質の遺伝”に興味を持ち、進化を目の前で見ることが夢であった 古澤 満 古澤 満
 

東電福島第一原発の事故のニュースは、広島・長崎の原爆投下やそれに続く米・仏・ソ連・中国の原水爆実験による放射能被曝を思いおこさせました。私は物理学者の友人に尋ねたり、Wikipediaの情報をもとに原子力発電のにわか勉強を始めました。事故当初は東京近辺に住む知人や兄から連日電話やメールがあり、福島原発事故の危険性について議論しました。その結果、放射能の直接の害は東京にはほとんど及ばないというのが私の結論でした。季節的に東京は風上になる確率が高いこと、放射能の強さは距離の2乗に反比例するのがその根拠です。もちろん、このようにのんびりと構えられたのも、私の住まいが福島から600kmも離れた兵庫県にあるからでしょう。

原子炉建屋の水素爆発の映像が世界に流されるやいなや、ウイーンに居るフロリアン(Dr. Florian Rüker:ウイーン農大教授)から一通のメールが入りました。「すくに家族でウイーンに避難してください。どうぞ自宅を自由に使用してください」と書かれていました。そしてメールの末尾に、本人と奥様(ギザ=Gisa)の携帯電話の番号が添えられていました。この暖かい申し出といきとどいた心づかいに一瞬目頭が熱くなりました。彼は家族と一緒に東京にある私の研究室に一年間留学していたことがありますので、島国である日本国土の狭さをよく知っていて、日本全土が放射能に汚染されると思ったに違いありません。西宮は原発から結構離れているのでとりあえず安全でることを謝辞を添えて返信しました。フロリアンとは彼がまだ大学院生であった頃からの長い付き合いで、ときどき家族ぐるみで行き来しています。一昨年の秋、お嬢さん(レ二―=Magdalena)が「バーデン劇場」のオペラ歌手の一員として来日し、奈良で食事を共にしました。

もう一人、勇敢なドイツ人を紹介したいと思います。第11回コラムで紹介したロ−ランド(Dr. Roland Werk)です。彼は空手を通しての友人ですが、医師でもあり、ウルツブルグで自分が起こした感染症関係の会社の社長をしています。この猛者は、なんとこの時期にわざわざ日本にやってくるというのです。この8月15日に来日し2週間ほど我が家に泊る予定です。さらに芦屋の「ホテル竹園」で、こともあろうに放射性セシウム汚染で問題になっている牛のしゃぶしゃぶとステーキをいただくことになっています。「竹園」は読売ジャイアンツの宿舎としても有名で、社長ご一家とは家人を含めてお付き合いをしています。ローランドの来日中には、空手の練習はもとより、原発問題、エピジェネティクス(ゲノムの塩基配列は変わらないのに、塩基やクロマチンの修飾などによって遺伝子発現が変わる現象)、人類学など、いろいろなテーマを酒の肴に友人たちと話すことにしています。

さて、この大災害をきっかけとして、真の親友とは何だろうか? という問題をあらためて考えるこにしました。親友を記述する適切な言葉を見つけるのはなかなか難しいものですが、私が到達した結論は ― 実は以前からの考えと変わっていないのですが ― 以下のようなものです。

私には大切な一人娘がいます。断っておきますがここから先は仮の話です。くどいようですが仮にですよ、娘がある男性と不倫の関係に陥ったとします。それでもなお、「よろしく頼む」と笑って盃を交わせる男がいるとしたら、それが本当の親友だと思います。この"踏み絵"をクリアーできる男性は国内外を問わず複数いると信じています。しかし、そのごに及んだら相手を殴り倒さないという保障はありません。

読者の皆様は何人親友がおられますか?


2011 年 8月 12日
古澤 満
古澤 満
バックナンバーはこちら

第1回  『進化と時間を考える』
第2回  『進化と時間を考える ― 続き ―』
第3回  『遺伝とDNA』
第4回  『エル・エスコリアル サマーコース』
第5回  『生物を支配する法則を探る ― 元本保証の多様性拡大 ―』
第6回  『生物を支配する法則を探る ― 保守と革新のカップリング ―』
第7回  『進化を目の前に見る事は可能か? ― @プロローグ ―』
第8回  『進化を目の前に見る事は可能か? ― A偶然の出会いときっかけ ―』
第9回  『目の位置』
第10回 『S氏の事』
第11回 『外国を知る』
第12回 『私とスポーツ ー野球・空手ー』
第13回 『私とスポーツ ースキー・ヨット・テニス―』
第14回 『大学での研究を振り返って』
第15回 『進化学と思考法』
第16回 『東電第一原子力発電所の事故と男の友情』
第17回 『体験的加齢医学』
第18回 『分子生物学の新しいパラダイム』
第19回 『往年の名テニスプレーヤー清水善造氏との出会い』
第20回 『芸術と科学』
第21回 『心に残った重大な出来事』
第22回 『自然科学と進化研究』
第23回 『ガードンさん、ジーンさんノーベル賞受賞おめでとうございます。』
第24回 『競技場内研究者』
第25回 『文系と理系』
第26回 『人生ままならぬ』
第27回 『STAP細胞仮説は科学の仮説ではない』
第28回 『人は一生で2回以上死ぬ!?』
第29回 『多様性と進化のパラドックス』
第30回 『科学者としての父を語る』
第31回 『熱帯多雨林に多種類の生物が密集している理由』
第32回 『日本語で考える』
第33回 『私の人格形成過程を振り返って』
第34回 『タスマニア・クルージングて』
第35回 『天才遺伝学者、アマール・クラー博士逝く』

◆ 第36回以降は「CHITOSE JOURNAL」へ移動しました ◆

印刷する

CLOSE

 

Copyright 2002-2011 Neo-Morgan Laboratory Inc. All Rights Reserved