プレスリリース

オートフォーカス・再生する電気顕微鏡 ~生体内で1細胞レベルの長時間追跡が可能に~

2018.11.01
  • 日本バイオデータ

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【発表のポイント】

  • ・本研究では、溶液と電極の界面の抵抗を特異的に測定する方法を発見し、この原理を応用して電気顕微鏡を発明。
  • ・電気顕微鏡素子のオートフォーカス機能と自己再生機能により、細胞などマイクロサイズの対象をピント調節せずに72時間以上連続観察可能である。
  • ・電気顕微鏡素子は注射針などにも搭載可能であり、今後、レントゲンや内視鏡と並ぶ人体イメージング技術への応用が期待される。

【概要】
東北大学未来科学技術共同研究センター先進半導体センサ・デバイス開発プロジェクト(プロジェクトリーダー:須川成利教授)の寺本教授らは、オートフォーカス機能と自己再生機能を有する『電気顕微鏡』の素子の開発に成功しました。従来型の光学顕微鏡とは異なって、ピント調整をすることなく26兆個の血球を含む35兆個以上の体内の細胞を長時間直接観察することが可能となり、この成果は、レントゲンや内視鏡と並ぶ人体イメージング技術の開発に貢献するものと考えられます。

なお、本成果は米国電気電子技術者協会主催の国際会議『IEEE Sensors 2018』にて2018年10月31日に発表、および会議予稿掲載されました。

シリコンウェハ上に構築した電気顕微鏡素子。この素子を用いて、生きた細胞の追跡に成功した。左は通常の写真、右は顕微鏡写真で動物細胞が播種されている。

【詳細な説明】
隠れた35億個の細胞をみるための装置
人体イメージング技術は世界中で盛んに開発されています。人の体は37兆個の細胞でできていますが、実はこのうち生きたまま細胞レベルの細かさで観察できる細胞は、2兆個に限られてきました。2兆個というのは、身体の表面に出ている皮膚と胃腸の細胞の数にあたります。37兆個から2兆個を除いた35兆個の細胞を細胞レベルの細かさで観察するためには、採血や組織採取などによって人の体から取り出さなければなりませんでした。

隠れた35兆個の細胞を観察することができるようになれば、例えばがんのような細胞に原因のある病気の早期発見につながることが期待されます。そこで今回、新しい原理の無レンズ顕微鏡(電気顕微鏡)をつくりました。

カメラに詳しい方はよくご存知かと思いますが、カメラや光学顕微鏡といった光学的な撮影装置には「被写体深度」が存在します。カメラは、視野の広さに「被写体深度」の高さを持った3次元の直方体を、2次元平面画像上に写し取ります。したがって、ピントを合わせることが必要であり、ピントを合わせようとする主な被写体とカメラとの間に他の物体が入り込んでしまうと上手く撮影することができません。これが、通常の光学顕微鏡において、37兆個の全細胞のうち表面の2兆個しかみることができない理由です。体内の細胞にピントを合わせることはできません。

今回開発した電気顕微鏡は、電気顕微鏡に密着させた被写体の電気化学的な特性をそのまま撮影することができるため、撮影時にピントを合わせる必要がありません。被写体の電気化学的な特性を撮影するために、電気顕微鏡は「極小の電極(100µm2以下)を用いて電解質水溶液の電気化学的インピーダンス測定を行うと、電極表面に生じる固体/液体の界面のインピーダンスと、電極にはさまれた液体のインピーダンスを周波数特性から分離することができる」という電気化学上の発見を利用しています。実は、電極表面に生じる固体/液体の界面のインピーダンスと、電極にはさまれた液体のインピーダンスを周波数特性から分離することは、これまで困難と考えられていました。特に電気顕微鏡では、今回発見した「電極表面に生じる固体/液体の界面のインピーダンス測定方法」を応用することで、極薄の界面を振動子として扱うことで被写体深度を数 µm 以下におさめることができました。

ところで、通常、このような電気化学的特性、振動子を応用した測定では、長時間測定を行うことが困難です。例えば、水晶振動子と抗体を利用した水晶振動子式免疫センサーの場合には、抗体に抗原が不可逆的に結合するため、1回ごとの使い捨てになっています。今回開発した電気顕微鏡の場合には、振動子が電極表面に生じる極薄の固体/液体の界面に生じますが、その界面の厚みは液体の側にのみ厚みを持っています。これは事実上、振動子が液体でできていることを意味します。そのため、振動子が自動的に更新され、振動子としての機能が劣化することなく再生し続けることがわかりました。この自己再生機能を利用することによって、実験室では72時間の長時間にわたって細胞の運動を追跡することができました。通常の光学顕微鏡では12時間を超える長時間の撮影を行うためには途中でピント調整が必要となり、また、光学顕微鏡以外の方法では途中で装置の取り替えが必要となるために、連続測定を行うことはできません。

このように、オートフォーカス、再生機能を持ち細胞の長期間追跡することができる電気顕微鏡をさらに発展させることによって、国民の皆さまの健康寿命増大に貢献するものと期待されます。

【掲載論文】
論文タイトル: An Electrical Impedance Biosensor Array for 㼀racking Moving Cells
(和訳: 1細胞リアルタイム追跡のための電気インピーダンスバイオセンシングデバイス)
著 者 : Norichika Ogata, Akihisa Shina, Takayuki Komiya, Yoji Iizuka, Ken Matsuse, Fuminobu Imaizumi, Tomoyuki Suwa, Akinobu Teramoto
所属1 株式会社日本バイオデータ
所属2 東京エレクトロン株式会社
所属3 東北大学未来科学技術共同研究センター
論文掲載誌: IEEE Sensors 2018 Conference Proceedings

【本プレスリリースに関するお問い合わせ先】
東北大学未来科学技術共同研究センター
担当 寺本 章伸 教授
電話 022-795-3977
E-mail teramoto@fff.niche.tohoku.ac.jp
株式会社日本バイオデータ
担当 緒方 法親
電話 044-813-3380
Email norichik@nbiodata.com

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