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プレスリリース
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ちとせ研究所と東北大学大学院生命科学研究科の永田教授らのグループによる共同研究の成果が、4月20日付でMicrobiology誌オンライン版に掲載されましたことをお知らせいたします。
【発表のポイント】
・通常、炭素源を添加しないと増殖しない細菌株が、たったひとつの遺伝子の高発現で炭素源を添加しなくても増殖するように「変身」することを発見。
・その増殖には大気中のCO2が必須であり、新規CO2固定経路の存在が示唆される。
・将来的にCO2削減問題への貢献に繋がる可能性がある。
【概要】
環境に常在する従属栄養細菌は有機炭素源がないと増殖できないとされておりますが、極貧栄養条件下でも増殖する場合があるということは、多くの微生物学者が経験しています。東北大学大学院生命科学研究科の永田教授らのグループは、従属栄養細菌株が、たったひとつの遺伝子adhXを高発現するだけで、有機炭素源を添加しなくても増殖できるように「変身」する現象を発見しました。この成果は前例のない新規現象の発見であり、その増殖には大気中のCO2が必須であることから、新規CO2固定経路の存在も示唆されます。また、本現象は有用細菌の効率的利用(炭素源の添加が不要)や有害細菌の増殖抑制(食品・医療器具等の汚染防止)に応用可能であり、将来的にはCO2削減問題への貢献も期待されます。
本研究結果は、4月20日付でMicrobiology誌オンライン版に掲載されました。
本研究は、公益財団法人発酵研究所(IFO)および文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
【詳細な説明】
東北大学大学院生命科学研究科の永田教授らのグループは、有機塩素系農薬分解細菌株の研究過程で、従属栄養細菌(注1)である本株から、有機炭素源を添加しない無機塩培地(注2)上で活発に増殖し、コロニー形成する突然変異株を見出しました。この突然変異株の解析から、本現象は、アルコールデヒドロゲナーゼ(注3)という酵素をコードするたったひとつの遺伝子adhXの高発現によって引き起こされることが明らかになりました。本現象には大気中のCO2が必須であることから、新規CO2固定経路の存在も示唆されます。adhX遺伝子の高発現突然変異は低頻度ながら自然に生じることから、本現象は細菌の低栄養環境適応機構としても重要であると考えられます。また、同様の現象は、他の従属栄養細菌株でも観察され、発酵による物質生産やバイオレメディエーションなどに用いられる有用細菌を有機炭素源の添加量を抑えて効率的に培養する技術や、食品や医療器具等における有害細菌の増殖を抑制する技術の開発への応用が期待されます。さらに、将来的にはCO2削減問題への貢献に繋がる可能性もあります。本研究は、公益財団法人発酵研究所(IFO)および文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
【用語説明】
(注1)従属栄養細菌:細菌は増殖に有機炭素源が必要な「従属栄養細菌」とCO2を固定して主な炭素源とする「独立栄養細菌」に大別される。独立栄養細菌にはCO2を固定するための特別な「仕組み」が必要だが、今回の発見は、そのような既知の仕組みを持たない従属栄養細菌がCO2の固定を伴い極貧栄養環境下で活発に増殖する現象を見出した点に意義がある。
(注2)無機塩培地:無機塩類のみからなる合成培地。
(注3)アルコールデヒドロゲナーゼ:アルコール脱水素酵素。アルコールをアルデヒドに変換する反応を触媒する酵素。生物が広く保有する。
【図】
【研究手法】
本研究では、主に細菌の遺伝学的手法および生化学的手法を用いた。ただし、自然突然変異株の効率的取得には、ちとせ研究所が開発した校正機能を欠如したDNAポリメラーゼを利用した不均衡変異導入法を用いた。
【論文題目】
題目:Expression of an alcohol dehydrogenase gene in a heterotrophic bacterium induces carbon dioxide-dependent high-yield growth under oligotrophic conditions
著者:Inaba S, Sakai H, Kato H, Horiuchi T, Yano H, Ohtsubo Y, Tsuda M, Nagata Y.
雑誌:Microbiology
Volume 166, in press
DOI: 10.1099/mic.0.000908
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 永田裕二 (ながたゆうじ)
電話番号: 022-217-6227
Eメール: aynaga@ige.tohoku.ac.jp
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか (たかはし さやか)
電話番号: 022-217-6193
Eメール: lifsci-pr@grp.tohoku.ac.jp
※本プレスリリースは東北大学大学院生命科学研究科が作成したものを転載しております。