CHITOSE LABORATORY

TECHNOLOGY当社の技術

生物を生物のまま利用するための技術

我々は、人類にとって有益な生命現象を見出し、これを自然界から取り出し、機能を改変し、持続可能かつ経済性のあるかたちで利用するために有効な技術の蓄積を進めています。日本で生物利用産業が発達した背景にある、生物と向き合ううえでの五感の繊細さや観察力・洞察力、また、優れた技術を積極的に取り入れる能力を大事にしています。

培養・栽培 育種・改良

Cultivate培養、栽培

生物の生育環境を生態系として捉え、利用する

人類の抱える様々な課題を解決する鍵となる有用な生命現象から、実際に社会に広く行き渡り活用されるテクノロジーを作り出すうえで重要な技術開発要素のひとつは、その機能を安定的に大きくかつ経済的に増幅させる方法論の確立です。我々は、様々な生物の培養・栽培技術の蓄積を進めています。

バイオマスを原料として、発酵法でエネルギーや医薬品や機能性素材を生産するには、閉鎖系で一種類の微生物や細胞を安定に純粋培養する技術が必要です。培養スケールは、実験室内のマイクロプレートから試験管、フラスコ、ジャーファーメンター、試験設備や商業規模の巨大タンクまで様々ですが、開発にあたっては培養のスケールアップが適切に進むように、最終スケールを見据えたうえで実験系を設計しなければなりません。また、取り扱う生物種や目的とする生産物の生合成経路によって、細胞形態や代謝の状態、栄養要求度、生活環、最適生育環境、環境から受けるストレス要因などは全く異なります。目の前の生物を実利用するうえで、どれだけの種類のパラメーターをどれだけの繊細さで把握しなければならないのか、どのパラメーターはどの手法で制御することができるのか、与えられたテーマ毎に適切な判断を下せるだけの様々な生物に触れた経験がなければ、商業生産を見据えた実験環境の設計はできません。最終製品の市場規模や求められる品質、そこから受ける制約を開発初期段階から考慮できなければ、最少投入エネルギーと最少リスクで最大の収益が得られるような、プロセス全体の経済性を考えた系の設計はできません。我々はこれまで、食品、化学、エネルギー、医薬、環境など様々な事業分野において、生物利用という分野横断的な観点から事業戦略立案から実際の開発までに関わり、これを通じて技術を蓄積し、事業と技術の両方の視点に立てる研究人材を育成してきました。

さらに近年ではオミックス解析技術の発展に伴い、土壌や腸内環境や生体組織などにおける、複数種の生物の複雑な相互作用によって生まれる有益な生命現象を産業に活用する取り組みが求められています。一方で、現在の多くの研究者は、複雑系から情報を取ってみることで満足しきっているように見えます。人類の抱える課題の解決のためには、膨大な情報の中から何を優先して制御するべきかについて、答えを出さなければなりません。我々は、発酵食品や醸造の分野で杜氏が経験的に複数の生物の働きを制御する術を見出し製法や味を分化させてきたように、生物に触れるなかで複雑な生態系を紐解くヒントを感覚的に拾い上げることができる研究人材を育成してきました。そして、そこで見出された現象を実際に制御するための技術は、生物工学とそれ以外の技術領域、例えば土木工学、機械工学、電子工学、生体工学、環境工学などとの境界領域に新たに生み出されてきています。

培養、栽培 イメージ

Improve育種、改良

生物の能力を引き出す

自然界は人間の想像を遥かに超える現象に満ちています。しかし、見出された現象の全てが努力さえすれば、経済的かつ持続可能なテクノロジーとして実用化できるという訳ではありません。自然科学の法則や生物としての能力限界を超えることはできないからです。我々は、育種とプロセス改良でできることの可能性と限界を十分に理解したうえで、シーズ技術やアイディアの実用化可能性を検証し、技術開発に取り組みます。

有用な生命現象は自然から切り出されたのち、その能力が人間にとってより活用しやすくなるように優れた品種へと育種がなされます。そして育種は、望ましい性質とプロセスをデザインし、それを目指して実際に生物に触れるサイクルの繰り返しによって進んで行きます。当社の育種技術は、望ましい生物の姿を規定し、自然で起こる突然変異を効率的に引き起こす変異導入法と、様々な遺伝的な形質を持つ個体の中から必要な機能を有する生物を選択するスクリーニング法の二つから成り立ちます。

従来は突然変異を引き起こすには、化学物質や放射線など生物にダメージを与える方法が使われてきました。当社では、理論進化学者の古澤満が提唱する不均衡進化理論をベースに、自然で起こる突然変異を短期間で効率良く引き起こす技術を開発しました。不均衡変異導入法は、DNA複製依存的に発生する複製エラーを利用する、増殖依存的な突然変異導入法です。この方法を用いることで、我々は様々な生物を人間にとってより有益な形質をもつように進化させる育種を従来よりもずっと短い時間でできるようになります。これは、大昔から米やトマトの品種改良の際に、どの遺伝子がどのように変化したのかを気にしなかったのと同様に、生物が環境に適用しようとする力を用い、確率論的にいつか生まれてくる可能性があった種を選んでくる技術なのです。我々はさらにこの技術を進化させ、第二世代、第三世代の技術開発を進めています。また、育種対象となる生物は、自然界に存在する野生株だけでなく、人工的に設計され遺伝子組換えによって作り出された生物も含まれます。

求める形質を保有する生物を選抜するのは困難を極める作業です。まず求める形質が何で、望ましくない形質が何かを明らかにしなければなりません。次に、それぞれの形質の変化が有意差として表れ、多検体を短時間で効率よく評価できる、安定した培養系と分析系を作り運用する必要があります。これは機械に大量のサンプルを流し込んで出てくる数字の大小を闇雲に評価するというものではありません。作業の過程で生じる技術者の観察による気付きに重きを置き、その変化の科学的な意味を考察し明らかにすることで、装置の設計や製作を伴う選抜プロセスの改良や、望ましい形質とプロセス像の設定に反映させています。

育種、改良 イメージ